※CQ出版トランジスタ技術 2007年8月号
XORゲートで断線、短絡、入れ代わりを見つける
LANケーブル・チェッカの製作

2010-04-21

●外観




ケーブルをつないでスイッチを押す。それだけです。



断線や短絡、接続間違いがあったら、赤LEDが点灯してブザーが鳴ります。

●配線



ユニバーサル基板を使って手組みしました。



LANコネクタの接続は、「サンハヤト」の「CK-18」を使っています。






●回路図

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●解説

■ LANケーブル・チェッカーの製作


●LANケーブル

 パソコンどうしが簡単につながるLAN(ローカル・エリア・ネットワーク)のおかげでずいぶん便利になりました。しかし、ケーブルを体裁良く引き回すのはなかなか難しいものです。仕事場だけでなく家庭でもLANケーブルが床や机の裏を這いずってませんでしょうか?
 また、椅子や机の足で踏みつけてしまったケーブルとか、ケーブルを引っ張ったまま機器を動かしたりと、痛めつけられたLANケーブルがずいぶんあることでしょう。長期間設置されたままの装置だと、ネズミにかじられたケーブルを見つけることもあります。また、ストックしたケーブルの中に、注意書の無いクロス接続のLANケーブルが混ざっているとやっかいです。
 多くのLANケーブル・テスタが市販されていますが、今回、簡単なLANケーブル・チェッカを作ってみました。対象となるのはRJ45コネクタで接続する4対8芯のツイストペア線を使ったLANケーブルです。電池で動作し、ブザーとLEDで報知します。


●XORゲートで断線、短絡、入れ代わりを見つける

 単純な導通の有無だけでなく、電線間の短絡や電線の入れ代わりもチェックできるようにします。【図1】がチェッカの原理図です。XOR(エクスクルーシブ・オア)ゲートの特性を(入力不一致でH出力)使って、ケーブルの断線や短絡を調べます。
 元の信号と異なる入力が加わるとHが出力されるので、不具合の検出が可能です。8本の電線に対して時分割したH/L信号を与えて、その一致をチェックするような回路にします。ケーブルの断線や短絡、あるいは接続が入れ代わっていると、元の信号タイミングとは異なった信号がXORゲートに入り、その時だけHのパルスが現れます。




●信号切り替えの方法

 出力どうしが短絡するかもしれないとなると、ケーブルをドライブする出力信号を保護しておかなければなりません。【図2】にアナログ・マルチプレクサを使って出力する方法を示します。
 マルチプレクサが選択されてLレベルになる信号以外は高インピーダンス状態になっているので、ケーブルが短絡しても心配ありません。ただ、出力用のマルチプレクサと比較信号を作るデコーダIC、この部分に2つのICを使わなければならないので、もったいないか?というぐらいでしょうか。

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●表示だけのチェッカ回路

 出力信号の短絡保護を簡略化して異常をLEDで表示するチェッカの回路が【図3】です。74HC138デコーダICの出力に直列抵抗を入れて(R1〜R8)短絡時に過大電流が流れないよう対策しました。
 74HC4060カウンタICでクロックを発生し、約500Hzサイクルで8本の信号接続をチェックします。異状があるとその一瞬だけXORゲート出力がHになり、LEDが点灯します。ダイナミックにドライブされるので、LEDの電流制限抵抗を1本にして簡略化しています。
 OKで点灯したいからといって、LEDの向きを逆にしてもうまくいきません。異状があっても一周期の1/8しか異状出力が出ないからです。周期の7/8は正常状態と同じLレベルですので、LEDを逆にした場合、異状があっても一瞬しか消えないので点灯状態と区別がつきません。

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●2本の電線が短絡したときの状態

 図3の回路では、XORゲートの入力を4.7kΩの抵抗(RM1)でプルアップしています。2本の電線が短絡したとすると【図4】のように抵抗がつながり、XORゲートの入力信号レベルが、ゲートの入力シュレショルド・レベルの近くになってしまいます。これが原因で、XORゲートが不安定になり出力が発振することがあるのです。
 ケーブルがつながっていると浮遊容量のせいでよけい不安定になります。この現象が起こってもLEDによる異状報知は行われますが、LEDが微妙に暗くなったりして違和感を感じます。
 これを防ぐには、
(1)プルアップ抵抗(RM1)を小さくする。
(2)スレッショルド・レベルが低い74HCT86を使う。
(3)図2の回路を使う。という方法が考えられます。
手軽なのは(1)の方法なのですが、あまり小さくすると正常接続時の入力レベルが上がってしまいます。短絡保護の直列抵抗が1kΩの場合、プルアップは3.9kΩあたりが限度でしょう。

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●ブザー報知する

 ケーブルのどの電線がおかしいのかを示すためにはLEDでの表示が必須です。しかし、断線を疑われるLANケーブルをチェックするときは、LEDが光るのを目で見るより音で聞くほうが良くわかります。ケーブルが切断してそうな場所(押さえつけられた痕跡)やRJ45コネクタの圧着部分をよじったり引っ張ったりして断線や短絡を調べるわけですが、そんな時はブザー音が便利です。そこで、最終的な回路に落ち着いたのです。
 直列抵抗によるデコーダ出力の短絡保護は同じです。しかし、XORゲートの前にPNPタイプの抵抗内蔵トランジスタを付けて、スレショルド・レベルの影響を受けにくいようにしました。
 ブザー報知は8つの信号がすべて正常なときに鳴ります。LED9はすべて正常で点灯、LED10はどれか異状で点灯します。異状時はLED1〜8が点灯して異状箇所を知らせます。



●組み立て

 ユニバーサル基板で手組みしています。LANケーブルをつなぐRJ45コネクタは「サンハヤト」のコネクタ変換基板「CK-18」を利用しました。
 ケースは「タカチ」のプラスチックケース「SW−125S」です。LEDとスイッチは基板の裏面に取り付けました。電池3本で動作させます。


●制御タイミング

 【図6】が制御タイミングです。異状信号を保持してブザー報知のタイミングを作っています。
 信号チェック・サイクルを作っている74HC4060は立ち下がりエッジでカウントが進みます。Dタイプ・フリップ・フロップ74HC74のクロックは立ち上がりエッジを検出します。
(1)D1〜D8で異状信号をワイヤード・オアします。この信号には、信号選択が切り替わる時にグリッチ(ヒゲ)が乗っています。
(2)FF1のクロックはカウント・クロックとは逆相で、グリッチのない安定した信号をラッチします。
(3)FF2で1サイクルごとのOK/NGを保持します。
(4)FF3でその信号をラッチし、連続したOK/NG信号に変えます。
(5)FF4はブザー報知のために使っていて、OKのとき8KHzクロックを1/2して圧電発音体を鳴らします。

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●運用

 「スイッチを押している時だけ動作する」ということで、LANケーブルを挿入してからスイッチを押します。起動した一瞬、パワーオン・リセットが働き0.1秒ほどOKランプが点灯しブザー報知が行われます。接続に異状がなければそのままLEDが点灯、ブザーが鳴り続けます。異状がある時はNG表示とともに異状箇所を示すLEDが点灯し、ブザー報知が止まります。
 LANケーブルで使われるツイストペア線の接続を【図7】に示します。クロス接続されたケーブルをつなぐとNGランプが点灯します。

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●最後に

 LANケーブル専用のチェッカとしてまとめましたが、同様の回路で汎用ケーブルチェッカを作ることも可能です。基本ゲートICだけを使ってのこういった工作も面白いのではないでしょうか。マイコンを使うとあれこれ便利なことが可能ですが、プログラムしなくてはなりません。配線さえすれば動く回路というのもぜひ体験してください。





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