※トランジスタ技術2004年5月号
20MHzまでの正弦波をスイープ出力する
MAX038を使った周波数スイープ・ジェネレータの製作
2006-06-10
CQ出版のトランジスタ技術2004年5月号に掲載された「MAX038を使ったスイープ・ジェネレータ」回路を紹介します。 正弦波だけですが、比較的広帯域にスイープできるので重宝しています。 そうそう。先日、インターネットでMAX038のスペックを調べていたところ、こんな表示が出たので驚きました。 製品ディスコン(製造中止)の案内です。 2004年のトラ技にこのICの記事を載せてもらってからまだ2年しかたっていません。 にもかかわらず「新規設計に使うな!」です。 代替品のない「スペシャルIC」だけに困ってしまいます。 ディスコンになったMAX038を追悼して、現用していますスイープジェネレータを紹介します。 ※メーカーの資料 http://japan.maxim-ic.com/quick_view2.cfm/qv_pk/1257 http://pdfserv.maxim-ic.com/jp/ds/MAX038_jp.pdf |
●ICL8038からMAX038に 可変周波数の正弦波発生用ICといえばICL8038が有名です。このICを用いて20年以上前に自作したファンクション・ジェネレータは、アナログ回路を検証するツールとして現役です。 しかし発振できる最高周波数が100kHz止まりで、ちょっともの足りません。今回の製作ではもう少し高い周波数まで使えるようにしようということで、マキシムのMAX038を使ってみることにしました。 ICL8038を用いたファンクション・ジェネレータでは、正弦波・方形波・三角波、3種類の波形切り替えや、出力にDCオフセット(±10V)を加味する回路や周波数変調できる機能を入れ込んでいました。 MAX038にもこの3種類の波形を出す機能はありますが、出力信号まわりはできるだけシンプルにということで、正弦波だけの出力にしました。DCオフセットも付けません。そのかわり、MAX038のVCOとしての広い周波数可変能力を活かし、スイープ・ジェネレータとして使えるようにしてみました。スイープ・レンジおよそ200倍、最高周波数20MHzの発振器を目指します。 ●スイープ・ジェネレータでなにができる さまざまなフィルタ回路、低周波ではOP−AMPの出番ですが数十kHzを越えるとコイルとコンデンサで構成することになります。その特性を調べたいときなど、専用の測定器を使えば周波数特性が一目瞭然、画面に出てきます。しかし計器が手元になければ、フィルタの入力に可変周波発振器をつなぎ、周波数を変えながら出力波形をオシロスコープで見るというのが基本的な方法でしょう。 ブラウン管面に描かれた波形のレベルを読みながら、3dB落ちは何Hz、−6dBでは、−20dBではと、発振器の周波数を変化させながら記録に残します。こんなとき連続して周波数を下から上へと振ってくれるスイープ・ジェネレータを使えば、出力を観測しているオシロスコープで、ダイナミックにレベルの変化を見ることができます。 残念ながら対数(dB)表示ではありませんが、回路の動作検証には十分役に立ちます。 |
●ブロック図 (手書きの図です) (←クリックで拡大) ●回路図 (←クリックで拡大) |
●外観 ●アルミケース内の様子 ●MAX038付近の部品配置 |
●発振回路 MAX038の波形選択入力(A0,A1端子)は使わず、正弦波のみ出力するようにしています。SYNC出力は使わないので、DGND(デジタルグランド)とDV+(デジタル電源)はオープンのままにします。位相検出器も使いません。 発振用周波数を決めるコンデンサをICの直近に置くため、小型DCリレーを使って切り替えます。パネルに取り付けたロータリースイッチでこのリレーを開閉してコンデンサを選択します。 コンデンサの値はデータシートのスイープレンジを参考にして決めてください。 今回の製作では手元にあったロータリースイッチ(6接点)の関係で5個のリレー、6レンジとし、10倍の値のコンデンサを切り替えています。可変できる周波数範囲の事を考えると、コンデンサの値を3倍くらいのステップにして、最低最高周波数をオーバーラップさせておくほうが便利でしょう。 ●スイープ用ノコギリ波発振回路 MAX038はIINの入力電流に比例して発振周波数が変化します。これを一定周期で可変すればスイープ・ジェネレータのできあがりです。積分回路を使えば直線性の良いランプ波を作ることができるので、これを応用します。 (1)積分コンデンサC1をR4とVR1で決まる電流で充電。 (2)OP−AMP・IC2Aの出力電圧が直線的に上昇。 これと2.5VのREF電圧を比較。 (3)この電圧に達したらシュミット入力のNANDゲートで組んだ フリップフロップを反転。 (4)C2とR9で決まる時間だけアナログスイッチIC1をオンし、 充電されたC1を放電。 (5)出力が0Vに戻る。 これで1サイクル終了です。 現在の定数でおよそ4〜110Hzが可変範囲となっています。 R1,R2,R3はC1を短絡させるアナログスイッチの保護抵抗です。4053には独立したスイッチが3個入っていますので並列にして使います。 |
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●周波数スイープ用ランプ波 |
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●周波数可変回路 周波数を変えるためのIIN入力に流れ込む電流は、2.5〜750μAと規定されていて、この範囲を越えると周波数が直線的に変化しなくなったり出力波形が歪んだりします。 IIN入力は、OP−AMPを反転アンプとして使ったときの、GNDにイマジナリーショートした反転入力と同じと考えられます。マキシムの資料には定電流回路がサンプルとして載っています。こうするとIIN入力のオフセット電圧をキャンセルできるのですが、定電流回路を構成するOP−AMPを含めて制御系全体を低オフセット品にしないと意味がありません。 今回は単純に、REFピンから高抵抗(R13)を通して電流を流し最低周波数を確定させ、最高周波数となる750μAの電流を周波数可変回路から抵抗(R12)を通して流します。使ったOP−AMPのオフセット電圧によりスイープレンジに影響が出ます。現在は少し多めに流れるようにしています。 周波数を可変する主ボリューム(VR4:10回転型ポテンショ)でスイープを開始する最低周波数を決めます。その電圧にスイープ幅を設定するVR3の出力、スイープ用ノコギリ波を加算回路で合成してIINに加えるようにしています。加算回路の後ろには+2.5Vのリミッタ回路を置いて、過大にドライブしないようしてあります。 SW1,SW2はスイープ周波数確認のためのスイッチです。スイープせず固定周波数で使うときはSW2をオフ(黒丸側)にします。この状態でVR4を回せば周波数が変わり、その場所がスイープする最低周波数となります。 SW1をオン(白丸側)にするとノコギリ波の最大ピークである+2.5VがVR3に加わります。SW1,2ともオンにしてVR3を回せばスイープする最高周波数が決まります。その後SW1をオフすれば設定した範囲の周波数幅でスイープが始まります。 周波数レンジごとの最大スイープ周波数幅は次のようになっています。
●出力回路 MAX038の出力そのまま(直列抵抗を入れていますが)の固定レベル出力と、出力レベルを調整できるようにした可変レベル出力の2つです。固定レベル出力のほうに周波数カウンタをつなぐという運用スタイルを想定しています。それとオシロスコープのトリガ用にノコギリ波を出力します。 MAX038の出力は2.0VP-Pです。ちょっとレベル不足ですので、可変レベル出力側は高速OP−AMP(AD811)を使っておよそ6VP-Pに増幅します。 ●組み立て 使用したユニバーサル基板は「サンハヤト」の「ICB-96DSE」で、部品面がシールド・パターンになっています。高周波を扱う回路ではGNDの引き回しが重要です。部品を取り付けた直近でベタアースに落とせるので助かります。 ただこの基板の場合、パターンがフラックス処理されているだけで、組み立て途中に触る手の汚れで、出来上がりがずいぶんきたなくなってしまいます。ハンダメッキ品の登場を待望するところです。 ●高周波の配線は同軸ケーブルで 基板からBNC出力コネクタまでの配線やレベル可変のためのボリューム間の配線には同軸ケーブルを使います。当初、配線長が短いからと手を抜いて普通の電線を使ったところ、高周波域で思いのほか大きな信号の減衰がおきました。GNDの引き回しや信号の反射が影響するのでしょう。AD811周辺の回路を手直しして、配線をやり直しするとほとんど減衰しなくなりました。 ●パスコンは贅沢に MAX038と高速アンプ周辺の電源ラインにはしっかりとバイパス・コンデンサを入れてください。回路図には記していませんが、電解コンデンサ、0.1μF積層セラミック、1000PFセラミック・コンデンサを適時入れておきます。 ●タイミング用コンデンサにはフィルムタイプを C1の積分コンデンサやC13,C14,C15の発振用コンデンサはフィルムタイプ(マイラー・コンデンサなど)を使ってください。特に、C1をセラミックにするとノコギリ波の直線性が悪くなります。 |
●波形例
●最高周波数でスイープ VR3を最大にしてVR4をある程度上げると、リミッタ回路で制御電圧が+2.5Vに制限されてピーク部分が平坦になります。 そのため最高周波数になったまま保持する時間ができるので、その部分の表示が濃く見えています。 もう一つ周期の長い波形が濃く写っていますが、これはノコギリ波のリセット区間の波形です。 ●1kHzのツインTノッチフィルタに信号を入れた様子 下側の波形がスイープしているノコギリ波です。 周波数が低い時は、スイープ時間を長くしておかないとうまく見えません。アナログオシロの場合、Y軸スキャンが遅くなるので少々見づらくなってしまいます。 ●復同調回路 7MHz〜16MHzの範囲でスイープして、FMラジオの中間周波数10.7MHz用IFT二つを小容量コンデンサでスタガ結合(復同調)】した特性を見てみました。 上は結合には4PFのコンデンサを使ったときで、同調点のピークが二つに別れてしまっています。 これを2PFに変えると下ののようになり、ピークが近づきます。 特性の違いが一目瞭然です。 |
●さいごに MAX038というICが存在してこそ実現できる回路です。このIC以外の特殊な部品といえば高速OP−AMPですが、とりあえずは無くても作れます。AD811にこだわらず、手に入るもので実験してみてください。 周波数のログスイープとかリターン信号を対数変換してオシロスコープに表示するなど実験してみたい拡張機能も考えられます。しかし、20MHzという周波数、侮っていると痛い目にあいます。ちょっとした配線の引き回し具合、GNDの扱いかたで特性がずいぶん変わります。いい勉強になりました。 さて、ほんとうにMAX038が入手できなくなってしまうのでしょうか。 しばらく見守ってやりたいと思います。 電子パーツ通販の「Digi-key」では、非在庫商品ということになっています。 また「RSオンライン」でも取り扱い終了となっています。 秋葉原の「秋月電子の通販」では、現在も在庫があるようです。 |