『恐るべき旅路』松浦晋也
ここの日記のリンクでも紹介しています松浦晋也さんの著作。
火星探査機「のぞみ」の計画から打ち上げ、そして行方不明になるまでの12年間を描くノンフィクションです。
正月休み用と思って図書館から借りてきましたが、どういう結末を迎えるのか、一気に読んでしまいました。
現在は小惑星探査機「はやぶさ」が、この「のぞみ」と同じような危機的状況になっているわけで、今後、どのように推移していくのか興味が尽きません。
この本の中で印象的だったことを列挙しておきます。
・「のぞみ」も「はやぶさ」も固体燃料ロケット。
燃焼を制御するのが容易な液体式ではない。
火がついたら燃え尽きるまで制御できないできない
固体式で惑星を目指した。
・推力が不足しているので、衛星の軽量化がたいへん。
戦闘機「零戦」の機体設計思想が思い浮かぶ。
・『技術は人につく』…衛星本体の燃料を制御する特殊なバルブが、
エンジニアが退職したために作れなくなった、という事情。
これが理由で製造メーカを変えたのが原因となって、作動不良をおこし、
軌道変更に失敗してしまう。
・月スイングバイと地球スイングバイ。
スイングバイとは惑星の重力を利用して人工衛星を加速や軌道変更する技術。
十分に燃料が積める大きな衛星では、スイングバイなんてする必要がないわけだが、
「のぞみ」では、地球まで使ってスイングバイをしたとのこと。
・探査機の送信機出力、Xバンドのが20W、Sバンドのが4W。
地上の通信設備にゴツイものを使うとはいえ、たったこれだけのパワーで
火星から電波を送ってくる。
・Sバンドの送信機が故障。Xバンドのしか使えなくなるが、Xバンドの電波は探査機のパラボラアンテナ
で送ってくる。
アンテナの指向面が地球を向いていなければならない。
しかし、太陽電池パネルによる電力管理の問題があり、パラボラを地球に向けられない。
パラボラのサイドローブの漏れを拾って、通信をおこなう。
・太陽フレアーの影響かビーコンしか出なくなってしまい、テレメトリーデータが送れなくなってしまう。
ビーコンでは探査機の状態を知る方法がないので、ビーコン電波の有無をyes/noとするような
コマンドを送って通信を継続。
「1ビット通信」と名付ける。答えが返ってくるのは電波が火星を往復する22分後。
(この経験から「はやぶさ」にはこのモードの通信手順が搭載されているという)
・どこかで回路がショートしていて、保護回路が働いてしまうため制御できない。
回路をミリ秒単位でオン・オフするコマンドを与えてなんとか作動させようと努力。
・火星の周回軌道に投入できないまま、火星の近傍(1000kmほど)を通過して、
人工惑星となった。
日本の宇宙開発を知る上でなかなか興味深いノンフィクションです。
人の手が届かない遠いところにいる探査機のトラブルに対して、知恵を
出し尽くして試行錯誤し、希望を持ってあきらめない様子が生き生きと描かれています。
これぞプロジェクトXです。
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2006年1月3日 09時23分
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