簡易型静電気検出器の解説
トラ技への投稿原稿から拾ってきました。
※回路図と写真はこちら
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●製作のきっかけ
とあるネバっとした液体をポンプで送り出している制御装置で、静電気が原因
のトラブルが発生しました。送り出している液体の動きのせいで、樹脂の配管
チューブ、それに樹脂でできたポンプユニットに静電気がたまってしまい、ある
時突然「パチッ!」っと放電が起こり、そのせいで制御装置が「暴走」してしま
うのです。
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新年早々(1999年の話)、とある装置のノイズ対策で振り回されてしまいました。
ワンチップマイコンを使った制御装置で「ポンプが回ると暴走する」という現象
が発生したのです。
ポンプの制御は単なるオン・オフで、ポンプの供給電源をリレー接点で入り切
りしています。接点間にはちゃんとノイズキラーは入っており、さほど大きな電
流を開閉しているわけではないので、暴走にいたるようなノイズが出ているとも
思えません。
いろいろ試行錯誤していると、現場の人から「ポンプを手で触るとビリッとき
て火花が飛んだ!」という証言が得られました。「こりゃ静電気か!」っと調べ
てみると、
・ポンプで送っている液体の流れによる摩擦で、どうやら静電気がたまるようだ。
・ポンプは樹脂製で、そのモータはアースから浮いている。
・ポンプモータの取り付け板とマイコン基板の乗った板とは電気的に導通がない。
塗料で絶縁されてしまっている。
・ある瞬間この絶縁が破れてパチッとなり、マイコンがそのエネルギーで狂って
しまうらしい。
てな原因が浮かんできました。
とりあえず「アース対策」をして様子見となりました。
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このトラブル、たまった静電気が逃げるようアースを完全にして一応の対策は
できました。その後「どこにどんなふうに静電気がたまっているのか見てみたい」
という要望が現場から出てまいりました。そこで、なんとか簡単に静電気を見る
ことはできないものかと、手持ちパーツを利用して実験がてら静電気検出回路を
製作してみました。それがこの回路です。
●回路
今回の回路は、一番単純な「DC」方式です。MOS−FET入力のOP−AMP
を、高抵抗を通して静電気検出電極につなぎ、これで±100μAのセンターゼロ
メータを振らせています。増幅はしていません。
文献を調べますと、本格的なものは、検出電極を振動させたり、あるいは電極の
前に設けたスリット(シールド板)を回転・振動させたりして、静電気による電界
を変化させ、発生する交流電圧を増幅して静電気量を測定しています。
※この電極を振動させるのに、圧電素子を応用しています。普通紙コピーの感光体
に帯電させる静電気の制御用として、TDKやムラタなどから、こういった方式の
ユニットが市販されています。手に入るのなら、どんなものか使ってみたかったの
ですが、大阪・日本橋のジャンク店では見つけることができませんでした。
●OP−AMP
使ったOP−AMPは低電圧でも動作する「ICL7611」です。オリジナル
はインターシルですが、現在はマキシムから入手できます。
電池1本の電圧で動作する性能を持っています。今回はプラス・マイナスにメー
タを振らさなければならないので、単3電池2本で正負両電源を作って動かしてい
ます。
このOP−AMP、IQ端子(8番ピン)の接続方法で動作電流が設定でき、
「10μA」「100μA」「1mA」の3種類から選べます。
最初はいちばん消費電流が少なくなるように配線していました。しかし、この
モードでは、出力電流が取り出せなくってメータが振れません。(マイナス側の
ドライブ能力が不足)100μAモードでもドライブ不足ぎみで、結局、1mA
のモードにしています。
入力バイアス電流は1pA(平均値)という性能で、テラΩ単位の入力インピー
ダンスです。この高い入力インピーダンスを生かすため、非反転入力ピンをフロー
ティング状態で使います。その入力保護のために10MΩを直列に接続します。
ICL7611の入力には、静電破壊防止用のダイオードが内蔵されており、加
わった異常電圧はプラス・マイナスの電源端子に逃げるようになっています。
●組み立て
ガラスエポキシ材の片面全穴ユニバーサル基板に回路を手組みして、市販のアル
ミケースに電池ボックスとともに組み込んでいます。
このとき、OP−AMPの非反転入力(3番ピン)だけ外へ折り曲げ、1ピッチ
(2.54mm)ずらして実装し、その足と10MΩ抵抗の周囲をグランドで囲う
ようにしてに配線しています。ハンダ付け後のフラックス(ハンダのヤニ)除去な
どはしていません。
検出電極は3mm径のビスです。絶縁ブッシングを使ってシャーシから浮かして
固定し、10MΩの抵抗とつなぎます。ビスの先に大きめの金属ワッシャをナット
止めすると、面積が稼げるので静電気によく反応するようになります。
回路のグランドはフレームグランドとしてケースに落とします。ケース自体も、
菊座ワッシャを使ってネジ止めし、構成部材が電気的につながってグランドに落ち
ているよう確実に接触させます。
単3の電池ボックスは、±1.5Vと0Vの3本の線が必要なので、2Pのス
ナップは使っていません。金属部に直接ハンダ付けして電源を引き出しています。
部品としてはセンターメータが入手しにくいでしょう。筆者の場合、手持ちパー
ツとしてこのメータを持っていたことが製作のきっかけとなりました。
ジャンク店を物色するか、古いアナログ式FMチューナに付いているチューニン
グメータを捜すくらいしか手はないでしょう。新規に購入するとなると、納期も金
額もかかりそうです。
どうしても手に入らないときは、普通のメータにマイナスのバイアス電圧を加え
るようにしてみてください。別図のようにゼロ点調整用のボリュームを付加します。
今回DC方式にして困ったのは「誘導ハム」を拾うことでした。(関西ですので
60Hz)ローパスフィルタにすりゃいいだろうと、非反転入力とグランドの間に
コンデンサを入れたら、失敗です。
入力抵抗があまりに大きいものだから、ちょっとのコンデンサでも「サンプルホ
ルダー」になってしまい、ピーク電圧がホールドされて応答がおかしくなってしま
います。
この解決には、検出電極の形状を工夫するしかなさそうです。電極を外に出すの
ではなく、シールド板で囲うようなつもりで、ケースの内部に電極を設けておくと
安定するのじゃないかと思っています。
●使用感
さて、組みあがったものの使用感ですが、静電気のたまり具合がけっこう分かり
ます。梱包材(エアクッション:いわゆるプチプチ)と衣類をこすり合わせると、
そりゃもうすごい帯電です。(うぶ毛が逆立つあの感じ、分かりますよね)こんな
ときプラス・マイナスどっちの電荷がどっちの素材にたまっているのか判断できる
ので、なかなかおもしろいものです。
問題となった液体送出ポンプでも、静電気のたまり具合が分かりましたし、配管
チューブやポンプばかりか、装置から出ているセンサーの接続ケーブルでも、使っ
ている電線の絶縁材の種類によりずいぶん静電気のたまるものがあることが分かり
ました。
これは、電線の引き回しをした作業者から「このケーブルつないだとき、パチッ
っときよったで」という話が出たので気になっていたのです。単純なシールド付き
多芯ケーブルですが、外装材の違いにより静電気をためやすいものがあることが判
明し、別のトラブルにつながらないか、心配事が増えてしまいました。こんなこと
も、今回の静電気検出器のおかげで分かりました。
残念ながら、現在の方法では絶対値としての電界を測定することはできません。
メータの振れも、単に大きい小さいを示すだけで、単位としての意味はありません。
また、対象物と検出電極の位置関係をつねに変化させているときは、その帯電の
強さによりメータが振れますが、動きを止めてしまうとしだいにゼロに近づいてし
まいます。その後、対象物から遠ざける方向に動かすと、反対の極性にメータが振
れます。この点から見ても、本格的に測定するにはAC方式を採用しなければなら
ないようです。
※部品リスト
・OP−AMP ICL7611DCPA ×1
マキシム @500
・1/4W・5%抵抗 10kΩ ×1
@5 (メータ感度に合わせて変更)
・1/4W・5%抵抗 10MΩ ×1
@5 (入力保護用)
・積層セラミックコンデンサ 0.1μF ×2
@20 (パスコン)
・ボリューム 10kΩ ×1
@100 (感度調整用)
・アルミケース LUB−1 ×1
鈴蘭堂 @1450
・2回路トグルスイッチ MS−500F ×1
ミヤマ @250 (電源スイッチ)
・単3電池2本組ボックス ×1
@100
・絶縁ワッシャ ×2
(検出電極絶縁用)
・3mm黄銅ビス 長=25mm ×1
(検出電極として使用)
・3mm黄銅ビス 長=8mm ×4
(基板固定用)
・金属スペーサ 長=10mm ×2
(基板固定用)
・3mm黄銅ナット ×1
・3mm黄銅ワッシャ ×1
・3mm菊座ワッシャ ×6
(ケースを確実に固定するため)
・コネクタ
(電源:3、VR:2、メータ:2 計7pを使用)
・圧着端子 ×2
(電極の接続とGNDをフレームに落とすのに使用)
・ツマミ ×1
(感度調整ボリュームに使用)
・ガラスエポキシ・ユニバーサル基板 ×1
サンハヤトなど (4cm角くらい)
・メータ U−60 DC±100μA ×1
西澤電機計器製作所
(100〜500μA程度の直流電流計。電流値により直列抵抗を
変えて感度を合わせる。
センターメータが入手できなければ、普通のメータを使い1kΩ
ボリュームを追加してゼロ調整をおこなう。)
・電線少々
◎メータとケース以外は大阪・日本橋のパーツ店でそろう。
OP−AMPは「共立電子産業」。
メータは「デジット」にチューナ用のセンターメータ(ジャンク)があった。
※参考文献
(1)CQ出版,トランジスタ技術1980年6月号,静電気検出計の製作,西村昭義
(2)CQ出版,メカトロ・センサ活用ハンドブック,電位センサの概要,久万田明
※トラ技の広告ページを見ますと、「サンハヤト」から
「静電探知器・EGロケータ」というものが発売されています。
(\14000)
※工具の「ホーザン」からも「スタティックロケータ・Z−201」という
静電気測定器がでています。(\35000)
どんなものか、一度見てみたいものです。
※=補足=
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2008年1月16日 06時15分
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